上記の写真は、1983年に使われていた Wilcom Computer Embroidery Design (CED)システムです。ひと昔前のDECディスプレイ端末を備えたPDP-11コンピューターを使用しており、Summagraphics Digitizing Tabletというタブレット(写真右のホワイトボードのようなもの)が接続されています。
マウスがない時代は、オペレーターがキーボードで直接コマンドを入力することで、コンピューターにシステム起動や制御の命令を行なっていました。
また刺繍のデジタイズは、タブレットとパック(タブレット上にあるコードの付いた黒い部品)を使用しておこなっていました。パックをタブレットのリファレンスカード(タブレットの右側にある黄色、緑、青などのテーブル)に移動することで、ステッチタイプやその他の刺繍ツールのコマンドを選択してデジタイズすることができました。
昔のシステムはこのような仕様だったため、一旦デジタイズを始めるとタブレットにずっと向き合うことになり、途中でコンピューターの画面を見ることはめったになかったそうです。
今ではコンピューターの画面上でデザインを作成し、TrueViewでそれらをシミュレートしたり、自動化された様々なデジタイズ機能を使用できるようになったりと、大きく様変わりしました。
上記の虎のデザインは、1980年代にCEDシステムを使って作られたものです。この頃すでにWilcomが開発し、特許を取得した「ステッチプロセッサー」の技術が使われています。例えば顔の部分のタタミステッチや、輪郭のエッジのぼかし、ヒゲの部分のバックトラックなど、WILCOMの初期の機能が駆使されているのが見受けられます。
この頃はUSBスティックはおろか、フロッピーディスクもなかったそうです。その代わりに使われていたのは、なんと紙テープ(下記イメージ参照)です。
作ったデザインのコードを紙テープにパンチ(穴開け)することで記録させ、それを刺繍機に読み込ませることでステッチを生成するという方法が使われていました。そのため昔からミシン刺繍のデザインを作っている人は今でも「パンチする」または「パンチングする」という表現を使う方もいます。それにしても、デザインを作るたびにパンチした紙テープがどんどん作業場に増えていったでしょうから、保管場所の確保や何のデザインか分かるように紙テープを管理することも大変だったのではないでしょうか。
これらの写真をWILCOMのFacebookで紹介したところ:
「本当、今と大きな違いですね!」「何年も前にこのシステムを使っていました。」
「(使い方が)とても複雑そうに見えます。技術革新に感謝します。」
「私はこのシステムで刺繍を始めました。10万針でデザインする時は悪夢のようでした。 その上、刺繍機のために紙テープを打ち抜かなければならなかったのです。今考えると、なんて大変な作業だったのでしょう!」
「これは私たちが1985年にセットアップしたのと同じシステムです。(中略)今ではノートパソコンを使ってホテルの部屋からすべてを行うことができるなんて信じられません。 あのころは想像もしませんでした…」
「私が今まで手掛けた中で最も素晴らしいデザインのいくつかをこのシステムで作成したんですよ!」
などなど、たくさんのコメント*をいただきました。
当時のことを考えると、今の刺繍デザインソフトウェアは技術が飛躍的に進歩し、より効率的で使いやすいものになりました。WILCOMが40年以上に渡って開発を続けてこられたのは、世界中の多くのユーザーが長年弊社を支えてくれたお陰です。これからも多くのユーザーに愛される刺繍ソフトウェアを提供できるよう、励んで参りたいと思います。