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ミシン刺繍におけるカラーマネージメント

ミシン刺繍のトレーナーとしても活躍しているエリック・キャンベル氏によるミシン刺繍業者が刺繡糸の色を決めるときに直面する一般的な問題と対処方法について提案しています。ぜひ参考にしてください。

カラーマネージメント

「カラーマネージメント」という用語は、印刷やグラフィックデザインの業界で頻繁に聞かれますが、ミシン刺繍においても、商業用の装飾デザインを考える際にカラーマネージメントが問題になってくる場合があります。

使用する刺繍糸によって作成されるデザインの色が大きく制限されるという理由で、色彩とそれに関する理解を深めなくてもよいと考えるべきではありません。

ミシン刺繍業者は、それぞれの色が実際にどのように見え、糸の性質によってもどのように色の見え方が変わるかを考慮したり、顧客と事前に打ち合わせておく事でよく起こる間違いや勘違い回避することができます。下記にいくつかのポイントをまとめました(項目をクリックすると内容がドロップダウンするようになっています)。

商業用のミシン刺繡で残念な結果を回避することは、顧客との明確なコミュニケーションにかかっています。色という物は非常に主観的なため、ほとんどの顧客は、技術用語や正確な色の仕様を用いて希望の色について指示することはありません。顧客が作成したい刺繍デザインを、お店にある刺繡糸の範囲内で色番号を付けて依頼してくれる事が理想ですが、そのような事はまず起こりません。

よくあるのは顧客が持ち寄った作品に出来るだけ近い色を提案したり、店にある刺繍糸の中から色の選択肢を提案する事です。その為、一番いいのは、顧客と一緒に色を確認するプロセスを行う事です。

顧客は、実際のデザインの原案や希望の色のサンプル、デジタル版のデザイン画などを提供すればと刺繡糸の色と一致させる事は簡単だと思いがちです。

もちろん言葉で説明されるよりはいいのですが、経験がある刺繍業者やデジタイザーは、それ以外に光が様々な角度で糸に当たることや、デジタイズされたステッチの質感が色の見え方に影響を与える可能性があることよく知っています。

左の3つのサンプルでは、それぞれの文字とボーダーの黄色が微妙に異なる黄色の刺繍糸が使用されているように見えますが、実際は3つともすべてが同じ糸色が使用されています。つまり背景色等によって色の認識が大幅に変わる可能性があり、完成した刺繍の見栄えに影響を与えます。

ライトグレー色の背景を使用したサンプルは、黄色の糸色をより暗くフラットな感じにします。中間の暖かいグレー色は黄色を明るく見せますが、黒色を背景にしたサンプルで感じられるような明るいレモン色には見えません。

顧客提供のプリント、カラーシステムのチップやメーカーが推奨する色の値を元に糸色を一致させることは良いスタート方法ですが、実際に刺繡糸の色を顧客に確認してもらう事は、刺繡糸が顧客が求めている色に限りなく近いか、顧客自身に正確に判断してもらえる一番良い機会です。

コーンに巻かれた状態の刺繍糸や刺繡サンプルを見せることによって、影やハイライトの状態や潜在的な変化を実際に顧客に確認してもらうことは、同じ色の刺繡と印刷の違いを理解してもらうのに最適な方法です。

顧客に会って色のマッチングについて案内する場合や、提供された資料に基づいてあなたがマッチングを行う場合、サンプルを表示する照明の種類をよく検討&考慮する必要があります。

フルスペクトル照明を取得する最も簡単な方法は、自然光の下でマッチングする方法ですが、近年はかなり正確に色を反映する機能を備えた照明がより手頃な価格で入手できるようになりました。お店や事務所で顧客と定期的に会って刺繍の色を確認する場合は、可能であればその場所に色をより正確に表す照明を取り付けることを検討してください。

CRI(演色評価指数)が高い照明は、色のマッチングに置いて一貫した環境を提供します。白色光の照明が生み出す「温度」さえ、色の知覚に影響を与える可能性があります。日光をより正確に表すクールな白色の場合、6,500kの照明が通常は標準として推奨されますが、人によっては自分の作品を主に暖色系の住宅用照明の下で鑑賞される事を想定して、より暖かく、より中間的な5,000kの照明を選ぶこともあります。

顧客が色決めに直接立ち会うことができない場合や、刺繡ソフトから出力したデザインイメージ、サンプル写真をデジタル版のプレビューとして送信する場合でも、必ず色についての免責事項を含めたメッセージを明記しておくことをお勧めします。

例えば「デジタル版のプレビューでは、選択した刺繍糸に対して100%正確ではありません。刺繍糸の色は、お客様が選択しない限り、提供された刺繡色のセットに可能な限り一致しています。」と入れておきます。

また、デジタル版はプレビューに使われるモニターやデバイスの照明や解像度は言うまでもなく、写真のプレビューであっても、品質や設定によっては劇的に色が変わる可能性があることを顧客に留意する事が賢明です。

 

色についての考察

顧客の作品を分析したり、パーソナライズのために色を推奨したりする際には、作品の全体像を把握し、熟考する必要があります。デジタイズのスタイル、生地の選択、刺繡糸の選択、およびデザインタイプについての相互作用などです。以下の項目には、一般的な問題の解決策やアイデアをまとめました。お役に立てれば幸いです。

まず最も考慮すべき重要な要素は、装飾を施すベースになる生地の色です。

特定のブランドカラーに固執したくなるかもしれませんが、刺繡糸の色が背景によっては全く違って見える事は多々あります。

刺繡糸の色の寒暖や彩度の微調整によってステッチを目立たせたり、あるいは選択した刺繍色に合わない生地の色の修正が必要なことがあります。

2列のサテンステッチの葉のような古典的な例は、ステッチ角度の単純な変更が単一色の糸から2つの色に見える外観を生み出す良い方法ではありますが、光による刺繍糸は常に見栄えが良いとは限りません。

直線または手縫いで作成されたデザイン、特に細い線で陰影が付けられた作品や彫刻のようなスタイルの作品は、色の変化に悩まされる可能性があります。 直線のステッチラインはよりしっかりと見える傾向があるので、暗い色やツヤのない刺繍糸を使用しても損なわれません。

サポートのない彫刻スタイルのデザインを暗い色の衣服に縫い付ける必要がある場合、明るい色または白い糸に切り替えて色を「反転」させたいという誘惑に駆られます。しかし、これを行うとステッチされた画像を反転し、影の領域をハイライトしたり、明るい色がステッチの針落ちポイントに影を落とすため、直線のステッチラインがより途切れた外観になって現れるといった、マイナスの影響を生む可能性があります。

アイデアの一つとして、明るい色で埋め縫い部分やアップリケ、ワッペンなどを作成し、その上に彫刻スタイルのステッチを元の暗い色で刺繍すれば、細く直線のラインステッチの途切れたような見栄えは軽減され、デザインの光と影を保てるでしょう。

ロゴやレタリングのコントラストのレベルは、一緒に使用される糸色や生地の色との比較によって刺繡の仕上がりの見栄えを大きく変える可能性があります。

同色系の色を重ねるトーンオントーン処理は、最も控えめな外観に一致させたり、単に明るくしたり、同じ色合いにする事によって文字列またはロゴを生地に似た色で作成します。出来栄えもシンプルで綺麗です。

コントラストを大きくする方法は、ほとんどのユニフォームやロゴの刺繍に適しています。例えばロゴのコントラストを制限すると、グラデーションとシェーディングが自然で滑らかに見えます。コントラスト比を上げると、オブジェクトの分離が顕著になり、離れた場所からの読みやすさが向上します。

正しいコントラストレベルというものはありません。顧客の希望する仕上がりをよく考慮して方法を検討する必要があります。

刺繍糸を使ってテクスチャ(触感や外観)を変えたい場合、いくつかの異なる光沢の刺繍糸を選択することをお勧めします。

光沢のある一般的な刺繡糸には明確な陰影があるのでサテンステッチを特に立体的に見せますが、糸の角度を反対にすることで色の見栄えを大きく変えることもできます。

マットな仕上げやぼやけたタイプの刺繍糸は陰影の極端な部分がなく、より均一なトーンになるので全体的な効果はよりフラットになります。また金属糸の刺繍糸は非常に明るいハイライトを持っているだけでなく、光の当たり方によってきらめく効果を生み出すことがよくあります。

メーカーの説明では同じ色である場合でも、刺繡糸の素材が違うと、光沢/反射率が変わってくるのでそれぞれの色の認識が大きく変わる事があります。同様の光沢の違いは、アップリケなどのデザインで使われるステッチの種類でも発生する事があります。長いステッチとサテンは常にタタミなどの埋め縫いステッチよりも光沢があり、通常の埋め縫いパターンであればランダムなステッチ長の埋め縫いよりもフラットで光沢ができます。

ステッチタイプによって色が大幅に変わるわけではないので、どのステッチでもこのような効果が生み出せるわけではありません。オブジェクト内の陰影やスプリットなどの手法を使用して立体的な作品を作成する場合は、使用する糸の光沢を考えた上で、より効果的なステッチタイプの性質を考えながら活用してください。

まとめ

最初にもお伝えしましたが、色彩というものは大変主観的なものです。顧客が「ロイヤル」と言った場合でも、紫からPantonカラーのプロセスブルーまで、いろんな色の可能性があります。その為、色を明確に伝えて確認する方法を学ぶと、色の確認&同意がより早く顧客とおこなう事ができ、事業の助けにもなるでしょう。

仕事のポリシーを明確にして、デザインの確認の度に色に関する免責事項を記載しておいたり、最初から色に影響を与える要素を念頭において、可能な限り顧客にアドバイスを与え、できれば実際に刺繡糸の色を見て選択してもらいましょう。そうすることによって顧客が求める最良の結果を得る事ができるだけでなく、あなたのプロとしての仕事の進め方を知ってもらう事もできるので、将来的なリピートのオーダーの際にも役立ちます。

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カラーホイール

使用色で循環

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